上海出張中のことだった。買い物をしようとして持ち合わせの人民元が足りないことに気がつき、中国銀行に立ち寄って円を元に両替した。
土曜日のせいか銀行は閑散としていた。後ろでおばあさんが警備員に尋ねる声がした。「これは何の金ですかね。」「外貨兌換券です。もう使えないよ」
兌換券は中国が外貨を管理するために約三十年前に導入した専用紙幣だ。警備員の指摘の通り、95年に廃止された。それを知らなかったおばあさんは事情を語り始めた。
十数年前に親類がくれてから、ずっと大事に持っていた。数日前、米国が金融危機に陥り、ドルが下がったと聞いて兌換券を思い出し、
信頼できる人民元に両替しなければと慌てた。たんすの中をひっくり返してようやくみつけたという。
警備員はうんざりした声になった。「もうつかえないから、どうしようもないですよ」。おばあさんは警備員を信用せず、窓口に両替を頼んだ。
窓口の若い女性は自分の祖母ほどの年齢のおばあさんに対してさすがにやわらかい口調で対応したが、内容は同じだった。おばあさんはショックして聞き返した。
「もう両替できたとすれば、いくらになります?」「100元と1角です」。おばあさんが再び絶句した。「えっ!100元もするの!」手が震え出すのが見えた。
両替作業を終わった私に、おばあさんの鳴きそうな声が聞こえた。「何とかしてもらえませんか。私の1週間の食事代に相当する金額ですよ」。
とっさに、日々倹約してつつましい暮らしを送る母の姿がまぶたに浮かんだ。おばあさんを呼び止めた。「おばあさん、銀行に変わって両替してあげます」。
100元の新札をおばあさんに渡し、体温が残っている兌換券をもらった。
posted @ 2008-10-21 10:27
catherine莜莜 阅读(67)
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