駆け出し記者だった頃に厳しいデスクがいて、紋切り型の表現をすると怒られた。びっくりする様を「目を白黒」などもってのほか。「衝撃が走った」と書いた新米の背中に「衝撃」と大書した紙を張り、社内を走らせたという伝説も残した▼
駆け出し:物事を始めたばかりで経験が浅いこと。また、その人.
デスク:(1)机。特に、事務机。(2)新聞社などで、取材・編集を指揮する人。
紋切り型(もんきりがた):(1)紋を切り抜くための型。
(2)物事のやり方が一定の様式にのっとっていること。きまりきっていて新しみがないこと。「―のあいさつ」
もってのほか:(1)非常に不届きであること。けしからぬこと。また、そのさま。「悪口を言うとは―だ」
(2)思いもかけずはなはだしい・こと(さま)。「―の怒りよう」「―のあわてよう」
(はなはだしい:程度が普通の状態をはるかにこえている。「―・く不穏当な発言」「無知も―・い」)
白黒(しろくろ):(1)0 白と黒。
(2)0 写真・映画・テレビなどで、白と黒の濃淡だけで画像が表されているもの。モノクローム。
(3)1 (「目を白黒させる」の形で)目を白目にしたり黒目にしたりして驚きあるいは苦しむさま。
(4)1 物事の是非。善悪・正邪。無罪と有罪。
「―を争う」「―をつける」
もう引退した鬼デスクも、一昨日の夜は「目を白黒」させたことだろう。「衝撃が走った」と書くしかないような、北京五輪の陸上男子100メートル、ジャマイカのボルト選手の疾走(しっそう)だった▼
ぴったりフィットの競技着が幅を利かせる中、黄色いランニングシャツをはためかせる姿は、「カリブの風」を思わせた。勝ちを確信したのだろう。ゴール前で踊るように減速し、胸をたたいてみせた。それで史上初の9秒6台には恐れ入るしかない▼
はためく:(動カ五[四])〔「はた」は擬音語〕
(1)鳴り響く。響き渡る。「雷おどろしくなり―・き/当世書生気質(逍遥)」
(2)布・紙などが風に吹かれてひるがえる。また、はたはたと音を立てる。「風に―・く万国旗」
(3)ゆらゆら動く。「舌は焔のやうに―・き合ひたり/今昔 14」
メダルは3位にまで授与される。だが勝負の実質となると、1人の勝者と、その他大勢の敗者(はいしゃ)である。ボルト選手の走りは「1人の勝者」を強烈に印象づけた。2位の選手いわく。「こっちはこれからというときに、あいつは両手を広げて余裕だったね」▼
人類最速への興味は、「100メートル」を「10秒」という分かりやすい数字に負うところが大きい。〈あらゆるスポーツを通じて、記録上の、数学的な美の極致(きょくち)〉だと、スポーツライターの小川勝さんは著書(ちょしょ)『10秒の壁』で言う▼
その美しさを体現する選手たちには、「暁(あかつき)の超特急」「褐色(かちいろ)の弾丸(だんがん)」といった流線形の称号がつけられてきた。ボルト選手は「稲妻」と呼ばれているそうだ。21歳。極致の数字をまだまだ縮めそうな、おそるべき雷光(らいこう)である。
posted @ 2008-08-18 11:23
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