それからアタシとアッくんは、頭の中がとろけちゃうくらいに何回もキスを繰り返した。
腕まくらして、抱き合って、キスをして……。
アタシはその間、アッくんに恋をしていた。
アッくんも、アタシに恋をしていたように感じた。
──屋上の魔法──
重い扉は魔法のかかった世界への入り口なのかもしれない。
そして扉から階段に戻ると、ふたりは魔法が解けて友達に戻る。
「暑いなぁ……」
「うん……暑い~っ!」
繋いだ手に汗がにじむ。
「下、降りる?」
「……ま、任せるっ」
下に降りるっていうことは、魔法が解けるってこと。
暑いのはわかるけど、まだ魔法にかかっていたい……。
アタシはアッくんのシャツをつかんで下を向いた。
「下降りて、また放課後に来る?」
その誘いに顔がパアッと明るくなってしまった。
「芽衣、わかりやすいなっ。キスにはまっちゃった?」
「……」
意地悪な質問に頬が赤く染まってしまう。
アッくんは友達だと優しいけど、屋上ではたまに意地悪なんだね……。
チュッ♪
アタシから初めてキスをした。
今度はアッくんが真っ赤になった。
「意地悪したおかえし! 赤くてタコちゃんみたい~」
「うるせぇよっ」
どちらからともなく、ふたりは手を繋いだ。
名残惜しむようにゆっくりと扉を開いた。
階段はひんやりとした空気が流れ、薄暗かった。
「みんなになんて言おっか?」
「え? キスしたことを言うのは嫌~~! ! 恥ずかしすぎる……」
「芽衣、バカだなぁ。キスは内緒でいいんだけどさ、今までどこにいたとか聞かれるだろ? それの嘘考えるんだよ」
あ、確かに……。そうだよねっ。
もぉ、キスばっかり考えちゃってて……。
階段を降りるにつれ、ふたりの手のひらは離れていった。
指も離れて、距離も開いて……。
魔法が解け、友達に戻っていくふたり。
教室に戻ると、4時間目の授業中だった。
カラカラカラ
静かに扉を開ける。
クラスメイトたちからの視線とヒソヒソ話す声がふたりに集中した。
こーいう雰囲気、かなり苦手……。
「あなたたち、今まで何してたの? 朝いなくなったって、担任の先生も心配したのよ!」
教壇にいる女教師がアタシとアッくんを交互に見た。
どうしよう──
なんて言えばいいのかわからなくて言葉が出なかった。すると、
「朝、オレが体調悪くなって家までむりやり送ってもらってたんです。勝手に帰ってすいません」
アッくんはそう言い、頭を下げた。
「ご……ごめんなさい」
アタシもそう言って、頭を下げる。
でも、この「ごめんなさい」は、先生にっていうよりアッくんに対しての気持ち。
アタシがサボらせちゃったのにかばってくれて……。
アッくん、なんでそんなに優しいの?
席に着くと、隣のナツくんと目が合った。
「あれから大変だったよ~。マックのこと聞かれてさぁ。うまくごまかしたけどねっ」
「階段のぼらないと突き当たりじゃん」
「パニクって忘れて真っ直ぐ走ってたんだよー。芽衣たち、今まで何してたの?」
言葉につまるアタシ。何をしてたか思い出して顔が赤くなる。
そして、夢心地から現実に戻った。急に後悔が襲ってくる……。
アタシ、何しちゃってたんだろう。
屋上で、何したの?
気持ちのないキスして……、何度も唇重ねて。
気まずくて、アッくんのことが見られない。
ナツくんには適当な言い訳をして流した。
考えれば考える程に、自分の軽薄さにあきれてくる。
でも……。
汚い行為かもしれないけど、あのときはすごく満たされたんだ。
アタシ、どうしちゃったんだろう?
自分で自分がわからなかった。
唇を合わせて抱き合ったとき、今まで感じたことのない、甘い幸福感で満たされた。
誰かに一時的にでも愛されて、求められたことが嬉しくて……。
悠哉はアタシを求めてくれない。
悠哉が求めていたのは姉の春菜。
アタシは初めて男の人に求められたの。
キスってどんな感じなのかな。
そう考えたことは何十回もあった。
キスに憧れてた。
キスをしたかった。
そして頭の中に浮かぶキスの光景。
相手は、当たり前のように悠哉だった。
叶わない恋を、夢の中で成就させてたんだ。
好きな人以外とキスするなんて、考えたこともなかったよ。
絶対できない。そう思ってたはずなのに。
今日、屋上で知っちゃった。
好きな人とすら、したことのないキスを……。
相手は違うけど、夢で見ていたキスを。
恋に破れた可哀想な女の子にとっても、キスって魔法なんだね。
キスしてるとき、ふと悠哉を思い出したんだ。
でも、悠哉の顔は頭からどんどん消えて……。
アッくんを好きになって、アッくんに愛されて、キスに没頭した。
悲しい恋を忘れる、恋の魔法。
ほんとは、知らなくてもいい魔法なの。
好きな人を忘れるために、キスを繰り返す。
そんなの、みんなが知ったら汚いと思うよね。
アッくんには、彼女がいる。
それに、経験も多いから、慣れた行為だろう。
好きな人が相手なら、何も考えずにとっても幸せだっただろうな──
こんな自分に嫌気がさした。
そして、またキスを……。
それ以上の行為を求めてしまう自分に嫌気がさす。
放課後まで、考え続けた。
屋上に行こうかな……。やめようかな。
──放課後。
アタシは屋上のドアを開いてしまった。
「来ないと思った。こっち来たら?」
すでに屋上にいたアッくんは、アタシに手招きをした。
そして、近づいたアタシの腕を引き寄せて、さっきよりも熱くて甘いキスをした。
その日以来ふたりは、ただの友達という関係を壊した。
友達でもないけど、恋人でもない。
ふたりきりのときだけの、恋人。
一緒にいると、好きでもないのに、恋してる感覚になった。
疑似恋愛の始まりだった。
posted on 2008-12-15 20:03
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