君だけが過ぎ去った
坂の途中は
暖かな日溜まりが
いくつもできてた
僕一人が ここで優しい
暖かさを
思い返してる
君だけを
君だけを
好きで
いたよ
風で目が
滲んで
遠く
なるよ
いつまでも 覚えてる
何もかも 変わっても
ひとつだけ ひとつだけ
ありふれた ものだけど
見せてやる 輝きに
満ちたその ひとつだけ
いつまでも いつまでも
守ってゆく
秋生「おい、野球やるぞ」
朋也「やれば」
秋生「やればじゃねぇ、今度の日曜また試合があるから、お前が人数を集めろって言ってるんだよ」
朋也「いや、言ってないだろ」
秋生「相手は隣町の商店街チームだ、ウチの商店街チームとは宿命のライバル関係にあり」
渚「お父さん、大人のチームにも入ってるんです」
秋生「だが、最近あっちが元甲子園球児を入れ上がった、おかげで、俺たちここんとこ連戦連敗、いいとこなしだ」
早苗「それでちかからご近所の方々の元気がないですね」
秋生「町の奴らを元気づけるためにも、次は是が非でも勝ったなきゃならねぇ。この際全員助っ人でもいい、肝心なのは流れを変えることだ」
朋也「だからって、何で俺が?」
早苗「渚、醤油、取ってください」
渚「はい」
秋生「お前ら今日から二学期だ、学校には演劇部って頼りになる仲間がいるじゃねぇか?学園祭時のチームワークを見たときから、俺は思ってたんだ、こいつらと野球をやってみてえってなぁ、渚の彼氏なら、パパにもサービス仕上がれ、え」
朋也「あのな、俺が右肩を痛めてるも知ってるだろ?」
秋生「俺の心にてめえが火を付けたんだ、ライク・ザ・ファイアボール!」
朋也「わけわかないす」
秋生「もしかしたら、奇跡が起こせるかもってなぁ」
二学期が始まった、俺はまだ渚の家に厄介になっている、高校三年の俺たちはそろそろ進路を決めなきゃればいけない時期だ、でも、俺はまだ自分の将来が見えないままだ。
杏「やる、面白いそうじゃない」
渚「杏ちゃんが入ってくれれば百人出来です」
春原「この春原陽平を使うとするとは、渚ちゃんの親父さん結構見る目あるじゃん」
朋也「あ、お前も天才的な運動神経を見込んだらしい」
春原「そうか、才能ってのは隠してても吹きこぼれちゃうもんなんだね」
朋也「相変わらず扱いやすくて、助かるぜえ」
春原「今何で?」
朋也「うそうそ、お前超天才だし、超運動神経いいし、超薄型で、夜も超安心」
春原「まーね」
ことみ「朋也くん、私も野球やってみたいの」
朋也「ことみ、ルール知ってるのか?」
ことみ「前に朋也くんと智代ちゃんが野球部と試合してるの見たの、とっても楽しいそうだったの」
春原「見てたんですか」
杏「涼、あんたはどうする?」
涼「私は応援してるよ、スポーツは自信ないから」
渚「私も精一杯応援します、頑張ってくださいねぇ、朋也くん」
杏「ふん」
朋也「何だよ」
杏「あんたたち、だんだん恋人らしくなってきたわねぇ」
渚「え、そうでしょうか」
智代「こんな場所に呼び出して、何の用だ?」
朋也「春原がお前にエッチなことをしたいそうだ」
朋也「智代の運動神経は今更測るまでもなかったか」
春原「僕は測定器ですか」
智代「何の話だ?」
渚「すごいです、智代さんまで参加してくれるなんて」
智代「まだ決めたわけじゃないぞ、美佐枝さんが出るなら、私も出ると言ったんだ」
朋也「美佐枝さん、運動神経良さそうだし、なんとしても口説き落とさないとな」
春原「付き合いの長い僕が頼めば大丈夫さ」
渚「あ、芳野祐介さんです」
智代「あ、いつかの結婚式の」
春原「ちょうどいい、あの人も誘うわぜぇ、おい~芳野さん」
渚「聞こえてないみたいです」
春原「よし、芳野コールだ」
朋也「芳野コール?」
春原「ステージのアンコールみたいにさ、そうすれば、きっと、ミュージシャンだった頃を思い出して、答えてくれるよ、せーの」
芳野、芳野……もっと大きい声で、芳野、芳野……
祐介「なんと嫌がらせだ。無理だ、日曜は仕事がある」
渚「そうですか」
祐介「悪く思わないでくれ、じゃあ」
朋也「待ってくれ」
渚「朋也くん、無理にお願いするのは…」
朋也「こいつは、春原はさ、あんたに憧れてんだよ」
春原「え?」
朋也「こいつ、実家は東北だし、卒業したら二度とこの街にくることもないだろう?だから、この町の思い出にさ、憧れの芳野さんと最後の思い出を作りたいってそう思ってるんだ」
智代「そんな事情があったのか」
渚「知りませんでした」
春原「岡崎、お前、僕のために…」
朋也「お前らまで、感動するな」
祐介「そうか、そいつは邪険にして、すまなかったな」
朋也「それじゃ…」
祐介「あ、何とか時間を作ってみよ」
美佐枝「大勢で何の用?」
春原「野球しようぜ!」
美佐枝「しない、じゃね」
朋也「お前は黙ってた方が良さそうだなあ」
春原「何でだよ」
智代「美佐枝さん、話を聞いてもらえないだろうか?」
美佐枝「まだ何か用?」
春原「野球しよ…」
智代「お前は喋るな」
美佐枝「あら、坂上さん、また生徒会の相談?」
智代「今日は違うんだ、あんたと一緒に野球がしたいんだ」
美佐枝「え、野球?」
智代「うん、あなたはその、目標だ、そしてライバルでもありたいんだ、スポーツで共に戦うことが出来たら、きっと学ぶことが多いと思う、承知してもらえないだろうか?」
美佐枝「あ、そういう目をされると弱いのよねぇ」
渚「ちゃんと九人揃いましたね」
朋也「最後の一人は芽衣ちゃんか、本当に来てくれるかなぁ?」
渚「朋也くんのお父さんにも来ていただきましょう、頑張ってる朋也くんを見てもらえましょう、私もちゃんとお会いしたいです、朋也くんのお父さん」
朋也「まだ今度にしよう、な?」
渚「朋也くん、待ってください」
芽衣「ほん、ほん、本当に芳野祐介さん」
渚「芽衣ちゃん、間に合って、よかったです」
春原「芳野祐介に会えるって言ったら、夜行で飛んできたよ」
公子「相楽さんのことはよく覚えています、いつも目立ってましたものね」
美佐枝「その節はお世話になりました、夫婦仲は円満みたいね」
祐介「おかげさまでなぁ」
朋也「美佐枝さんと芳野さんたち知り合いだったのか?」
渚「みたいです」
秋生「全員集合!今日はよく集まってくれた、礼を言う。しかし負けたら意味がねぇ、ヘマをした奴は早苗さんのパンを食わせてやる、気合い入れていけよ!」
杏「早苗のパンって、何のこと?」
朋也「知らない方が幸せだ」
渚「いよいよ試合開始です」
涼「お姉ちゃん、しっかり」
公子「祐くん、頑張って」
早苗「皆さん、ファイト~ですよ~」
A「ふん、こんな寄せ集めのチームで挑戦とは、あんたも落ちぶれたもんだぜ」
秋生「さ、どうかな、俺にとっちゃは最高に楽しいチームになるはずだぜ」
A「ストライク」
芽衣「わぁ、早い」
朋也「あんな球を受けられるのはこん中じゃお前の兄さんだけだろう」
春原「手が持たねぇよ」
杏「あんたの手なんかどうなってもいいから、ちゃんと受けなさい」
春原「酷すぎませんか?貴女」
秋生「三者凡退か、いい出だしだ」
朋也「あれ?あいつ左だっけ?」
杏「どうせ、左打席の方が一塁に近いからとか、そんな理由じゃないの?」
朋也「強打と見せかけてバント」
芽衣「しかもアウトで、すごく格好悪い」
杏「幸先悪すぎ、チームの疫病神ね」
春原「相手は甲子園投手だぞ、てめえは打てんのかよ?」
杏「やって野郎じゃないなぁ」
秋生「お、やるじゃないか」
杏「どんなモン!」
春原「三番、僕行きます」
朋也「お前はルールを知らないのか?」
秋生「まずは三点、先制だなぁ。何だよ、てめえ勝負、仕上がれ」
朋也「ワンアウト満塁だ、頼むぞ、智代」
智代「私はバッターをやるのは初めてなんだが」
朋也「手が逆だ」
智代「こうか?」
朋也「もっと足を開いて、腰を溜めて打つんだ、打ったら、一塁へ走るんだぞ」
A「ストライク」
芽衣「智代さん、ファイト~」
朋也「智代、ここから、ここ以外は振らずに見送れ」
秋生「見たか、てめえら」
A「馬鹿な」
智代「悪い、ボールを無くしてしまった」
朋也「いいんだよ、一週回って来い」
芽衣「すごい強そうですね」
朋也「あ、さすが元甲子園球児だ」
杏「大丈夫?」
朋也「おっさん」
A「すまん、大丈夫か?」
春原「てめえ、わざとだろう?」
A「いや、不可抗力だって」
A「どうする?こっちの選手、誰か貸そうか?」
秋生「馬鹿野郎、それじゃ意味がねぇ、負けられねえんだよ、この町の威信に賭けても、ピッチャー交代、ピッチャー!古河渚!」
えええ~~~
涼「渚ちゃん、大丈夫でしょうか?」
秋生「中途半端に運動神経のいい奴が投げても、かえって打たれちまう、それなら、運動音痴の山形ボールの方が凡打になる可能性が高い」
早苗「渚、ファイト~ですよ」
朋也「渚、落ち着いていけ」
杏「打たれても、私たちがついてるからね」
渚「はい、よろしくお願いします」
春原「来い、渚ちゃん」
朋也「智代!」
A「アウト」
渚「皆さんのおかげで何とかチェンジに出来ました」
杏「気を遣わないの、私たちはそのためにいるんだから」
春原「岡崎、僕の前にランナー溜めろよ」
朋也「肩が痛めてる人間に無茶言うなよ」
A「ストライク、バッターアウト」
ことみ「1球目に内角低めがくる確立62パーセント、バットの長さ800ミリ、ボールの大きさ70ミリ、私の両手の長さと肩の可動範囲、それにボールの速さを計算すれば、必ず打てるの!」
春原「お、テキサスヒット」
朋也「ことみ、走れ!」
A「セーフ」
ことみ「やったの!」
春原「次が僕だ、汚名万来のチャンス」
朋也「嫌なチャンスだな」
A「アウト」
杏「あんた馬鹿!ことみがヒット打ってんのに、台無しにしちゃって」
美佐枝「春原最低!」
芽衣「格好悪い」
朋也「まさしく汚名万来だ」
秋生「ノウアウト三塁、またもや試練だな」
涼「渚ちゃん、頑張って」
朋也「ライトか」
ことみ「取ったの」
朋也「ことみ、バックホームだ」
ことみ「ごめんなさい、タッチアップのことを忘れたの」
朋也「いや、お前のおかげで、一点で止められたんだ、あれって上出来だ」
秋生「取られたら、取り返せいい、がんがん打ってけ」
春原「ウチの女性陣がすごいね、元甲子園ピッチャーからヒット打ちまくってさ」
秋生「ノウアウト一三塁、次は誰だ?そうか、お前だったなぁ、スクイズでいいや」
渚「ス、クイズ?どんなクイズでしょうか?」
秋生「もういいから、思いいっきり振って来い」
A「ストライク、バッターアウト」
渚「すみません」
秋生「ま、いいや、次は主砲の智ぴょんだし」
智代「変な呼び方をしないでくれ」
涼「智代さん、またホームランをお願いします」
ことみ「お願いなの」
智代「いやだ、私は女の子らしく、小さくて、綺麗なヒットがいい」
早苗「ファイト~ですよ」
智代「女らしいヒットは難しいなぁ」
芽衣「岡崎さん、頑張ってください」
朋也「この肩で出来ることと言ったら」
A「アウト」
秋生「好きじゃねえがな、ま、悪くない作戦だ」
春原「岡崎、お前落ちぶれたなぁ」
朋也「誰かさんのようにダブルプレーになるよりマシだろ」
春原「んなことはねぇよ、男だったら、果敢に行くっきゃねえよ」
秋生「お、いいぞ、美佐枝ちゃん」
美佐枝「美佐枝ちゃん言うな」
智代「これでよし」
芽衣「芳野さん、頑張ってください」
A「ストライク」
祐介「ここまで何の活躍も出来なかった俺だが、子供たちのためにも、必ず打つ」
A「ストライク」
早苗「ファイト~ですよ」
祐介「これが、俺からの贈り物だ」
美佐枝「こういう風景って、今も健在なのね」
祐介「子供たちよ、これが今の俺に出来る唯一の贈り物だ、思い出という名の、形のない贈り物だ、俺には金もない、形あるものなんて買い与えてやれない、それでも」。
A「アウト」
美佐枝「本当に変わってないわね」
公子「申し訳ありません」
秋生「ついに逆転されたか」
早苗「ファイトですよ」
渚「すみません」
春原「渚ちゃんに責任はないよ、あいつらが強すぎるんだ」
杏「逆転されたのはあんたの暴投のせいでしょう」
智代「その前に、怠慢プレーもあった」
芽衣「キャッチャーフライを落として、逆転のランナーを出しちゃったのもお兄ちゃんじゃない」
美佐枝「あぁ~力んじゃった」
秋生「ワンアウトだ、渚、行ってこい」
渚「あ、はい」
芽衣「渚さん、落ち着いて」
早苗「渚ちゃん、集中です」
ことみ「思いいっきり振ればいいと思うの」
杏「リラックス、リラックス」
朋也「アウトになってもいい、悔いが残らないように思いいっきり振っていけ」
渚「悔いが残らないように。やりました」
秋生「よし、さすが俺の娘だ」
智代「ここが力いっぱい打つ」
秋生「あれしょうがない、残念だったなぁ」
祐介「今の俺は笑えているか」
春原「いや、笑ってないスけど」
祐介「悪いな、こんな俺で、こんな無様な俺で、こんな思い出で、しかし、最後には笑う!」
公子「祐くん、頑張って」
祐介「これが俺からの贈り物だ」
秋生「よし、逆転のランナーが出た」
祐介「子供たちよ、これが今の俺に、おっとタイムが、これが今の俺に出来る唯一の贈り物だ、思い出という名の、形のない贈り物だ、俺には金もない、形のあるものなんて買い与えてやれない、それでも、形はなくても、思い出はいつまでも残り続ける、俺はそう信じている」
A「あの、もういい?」
祐介「ま、ありがとう」
公子「祐くん、偉いです」
芽衣「芳野さんの言葉、感動しました」
秋生「おい、小僧、ツーアウト満塁だ、スクイズはできねぇ、後はお前に任せる」
朋也「でも…俺は肩が…」
早苗「岡崎さん、ファイト~ですよ」
杏「渚にホームを踏ませてやんなさい」
涼「頑張ってください、岡崎くん」
智代「岡崎なら、きっと打てる」
ことみ「朋也くん、頑張って」
秋生「この町に勝利を」