听写:英子
校对人员: wendy潘多拉盒 橘子 aki
気づくと、僕は引き戸の内側に立っていた。普通の木造屋の玄関は想像していた僕は、面食らった。そこには廊下も部屋の仕切りもなく、ただがらんとした薄暗い空間が広がっているだけなのだ。たとえて言うなら、広い物置小屋、もうすこし、ましな言い方をすれば、木造の倉庫か、さらに驚いたことには、この薄暗い倉庫の中央に古びた大きなカウンターらしき大机が置いてあって、その向こうに座っている人影が見えたことだ。「あっ」、僕は反射的に声をあげて、そのままあわてて自分の口を塞いだ。誰にでもこんな経験はあるだろう、見てはいけないものを見た気がして、反射的に声をあげてしまったという経験が、それは一瞬恐怖の感情をともなって、僕の全身を駆け巡った。やばい、何だかわからないが、ここはやばい所に違いない。僕はすぐさま引き返そうとして、後ずさった、一刻も早くここを出なければ、一瞬でそう考えて、回れ右した僕の背中に追い打ちをかける力が働いた。「ご注文は」、確かにそう聞こえた、全身が凍りつき、僕は蛇に睨まれた蛙のように硬直した、動けない。「ご注文は」、尚もその声は言った。感情に抑揚のないしわがれた老人の声だった。ちょっとの間をおいて、僕は恐る恐る視線を背後に戻した。先ほどの人影がゆらりと蠢き、僕は息をのんだ。相変わらずがらんとした部屋にカウンターだけの空間が大きな圧迫感となって押しよせてくる。老人らしき人影はその僕の様子にいまさらながら気づいたような口調で言った。「ふん、なにか不審なってんでも」「いいや、別に僕は」「そうですか、りゃ、ここにお座りください。」まるで、催眠術にかかったかのように、ぼくはなすでもなく、勧められるままにカウンターの前に置かれていたパイプ椅子に座った。座ってみると、今度は老人の顔の輪郭がはっきりとしてきた。どこにでもいる、まるでタバコ屋の主人のようなごくありふれた老人が眼鏡の淵を持ち上げ、僕の顔を覗き込んでいた。「なんだ、ただの人間じゃないか」、そう思ったら、すうっと緊張の糸が解けたように全身から力が抜けていくのがわかった。考えてみれば、この世の中にそうそう妖怪だとか、化けものの類がいるはずもない。仮にこの老人があやしい人物だとしても、体力の差は歴然としている。いざとなったら、この老人を打ち倒して逃げればいい、そんな不謹慎な考えが今は自分を安心させる唯一の材料となっていた。「では、ご注文を伺いましょう」、「あの、ここでは何を売っているんですか。」至極当然の質問だろう、こんなあやしいところでいきなり注文と言われて、「はい、そうですか、なになにお願いします」というようなばかはいない。「そもそもここには、なにもないではないか、おそらく詐欺まがいの商売に違いない、適当にごまかして、とっとと 帰ろう」いくぶん落着きを取り戻してそう考えた。僕は自分の考えを悟られないように平静を装った(よそおった)が、老人は そんな目の前の客の様子にはまるで関心がなさそ うに、自分の商売を始めた。「ここでは、幸せを売っております。」「はあ?」ますますあやしい、こんな商売はたかが知れている。どうぜ、高額な印鑑や壷の押し売りに決まっている。でなければ、宗教の勧誘に間違いない、もう長居は無用だ。「信じられませんか。」老人は僕の心を見透かしたように言って、にやりとして見せた。なんだか急に腹が立ってきた。こんな老人に騙されてなるものか。そこで、僕はあることを思いついた。そうだ、注文してやろう、絶対無理なものを、「じゃ、聞いてもらっていいですか。」「どうぞ。」「僕は最愛の彼女を一年前に交通事故で失いました。いま不幸のどん底なんです。僕の幸せは彼女の存在なくしてはありえません。だから、」僕は語気を強めた、「僕の死んだ彼女を注文します。」どうだ、まいっただろう、ざまをみろ 、印鑑(?)や宗教じゃクリアー できない難題だ。さあ、どうする、「ふん、承知しました。では、この注文書にあなたのお名前と住所をお書きください。」「んっ」僕は言葉を失った。そんな客にお構いなしに老人は一枚の紙と鉛筆を差し出した。僕はその紙を念入りに調べてみたが、住所、名前のほかに注文欄 があるだけで、ほかには何も書いてない。びっしりと小さな字で書き込まれた詐欺まがいの契約条文もない。ただの白新に近い紙っぺらだ。しかもこの鉛筆は子供のころに学校で使ったことがある六角形のHBだ。ふざけたことをするな。僕の曲がった口を見て、老人が、鋭い目つきになってこう言った「あなたの願いを叶えようというのです。それでも不服が」その一言が僕の心臓を貫き、僕はがっくりと肩を落とした。そのとおりだ、それがほんとに僕の願いなんだ。それ以外も何ものもいらない。たとえこの老人が詐欺師だろうが何だろうがかまわない、この世で僕の気持ちを理解してくれる唯一の人間なのかもしれないのだ。僕は震える手で注文書に自分の住所と名前、そして注文欄に彼女の名前を書いた。「あの代金は?」僕はすっかり詐欺師の言いなりになっていた。「お代は後払いの成功報酬となっております。」後払いの成功報酬とはなんどろう、なんだかすごく都合がよくて、でもあとで法外な金を請求されそうな恐ろしい支払方法のような気がしたが、僕は彼女への思いに胸をつぶされて、もうなにもかもどうでもいい心境になっていた。この詐欺師は人の心を自在に操る天才なのかもしれない、「注文の品はのちほどお届けいたします」詐欺師の声を遠くに聞きながら僕は不思議工房をあとにした。外はすっかり日が暮れて、わずかな街頭に虫の群がる暗闇の世界となっていた。
posted on 2008-06-07 13:03
prettylj 阅读(72)
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