ノートを取っていて、とっさに漢字が出てこないことが多くなった。手書きの原稿からパソコンへと仕事道具が変わって、もう十数年。取材のお礼やあいさつもほとんどメール。それなのに、転勤あいさつがメールで届くとむっとする。身勝手なものだ。
とっさに:その瞬間に。たちどころに。「―ブレーキをふむ」
むっと:怒りに表情をこわばらせるさま。「悪口に―する」「―した顔」
反省もそこそこに、やっぱりメールで寄稿の依頼を打っていたら、小豆島の記者から一冊の本が届いた。「戦場からの手紙」というタイトルの薄い本は、土庄町に住む新城周(かね)子さん(69)が出版したもの。日中戦争に出征した亡父が、島の妻子らにあてた手紙で全文が構成されている。
そこそこ:(多く「…もそこそこに」の形で)ある事を十分しおえないで先を急ぐさま。「食事も―に出かける」
寄稿(きこう):依頼されて、新聞や雑誌などに原稿を書いて送ること。「雑誌に―する」
小豆島(しょうどしま):香川県北東部、瀬戸内海東部の島。
戦場:せんじょう
出征:しゅっせい
亡父:ぼうふ
「或(ある)いはこれが最後の手紙と成るかもしれません。どうか御健康で永く生きて下さい」「私の事にあまり心配して体をこわさないよう、運を天にまかして安気に御生活下さい」「周子を成長さして立派にそだててくれ」「おそうめん有り難う御座いました。美代子(妻)の味がして大変おいしかった」。
安気(あんき):心に苦しみがなく、気楽でのんびりしていること。また、そのさま。
素麺(そうめん):塩水でこねた小麦粉に植物油を塗り、細く引き伸ばして、日に干しためん。ゆでて冷水にさらし、つけ汁で食する。煮たものは煮麺(にゆうめん)という。
新城さんの父、伴一さんが家族に送った手紙は約三百通。明日をも知れない特殊な状況下とはいえ、七十年近くも前に書かれた手紙がこんなに染みるのはなぜだろう。戦場に立つ男が、一文字一文字に込めた家族への思いは目に見えない力となって、文字を書くことを忘れた現代人の心を強く打つ。
染みる(しみる):心にしみじみと感じる。しむ。「親切が身に―・みる」
そういえば入社したてのころは、先輩たちの悪筆に驚き、それを読み間違えることなくタイプするパンチャーさんを尊敬した。今は引退したそんな先輩たちの記事を、その文字とともによく覚えている。
悪筆(あくひつ):へたな字。また、字がへたなこと。
パンチャー:穿孔機(せんこうき)でコンピューターの入力カードや紙テープに穴を開ける作業をする人。
言葉の向こうに人が透けて見えた時代。思いもかけない感想を抱きながら、懐かしい思いと自己反省を込めて本を閉じた。
透ける(すける):物を通して、その中や向こう側が見える。「肌が―・けて見える」
posted on 2006-03-20 14:56
youloveyan 阅读(609)
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