売りつけるものは、なにもない。文明の低い星へ行って、ばかばかしいほど初歩的なことから説明する場合もやっかいだ。それでも、説明し終わると商談はまとまる。しかし、このように相手が少し高級となると、どうしようもないのだ。
ケイ氏は劣等感にとられ、恥ずかしくなってきた。だが、自分の仕事忘れたり、あきらめたりしたわけではない。元気を出すのだ。地球で作られていて、この星に欠けている製品も、なにかきっとあるはずだ。それを見出して売り込まねばならぬ。
なかなk思いつかず、いらいらし始めた時、建物のそとで激しいサイレンの音がした。ケイ氏は長官に聞いた。「なんですか、あの音は・・・・・・」
「事件です。実は大変なものが、こっちへ来つつあるとのしらせです。しばらく、じっとしてください」
ケイ氏は窓からのぞくと、そとの道路では大騒ぎだった。住民たちは急いで家にとじこもりはじめた。それにかわって、複雑な装置をつけた車が、何台も動きまわっている。空でもヘリコプターのようなものが飛び交っている。
なにかわからないが、よほどのものがやってくるらしい。ケイ氏が緊張して眺めつづけていると、車からなにかが発射された。それはこまかい網で、空中でおおきな花のようにひろがり、下へと落ちた。
長官は、ほっとしたような表情で言った。「なんとか、つかまえたようです。ご安心ください。もう大丈夫です」
「いったい、なにが出現したのですか」
「ごらんにいれましょう・・・・・・」
長官に案内され、ケイ氏は近寄り、網でとらえられたものを見た。なにもいないようだったが、注意されて目を凝らすと、たしかに生物が存在していた。それは一匹の、ちいさなハエだった。
長官は、得意げに説明した。「車につんである精巧な装置のおかげです。まず、高度なレーダーで目標物を追い込みます。一方、風向きや気圧を測定し、コンピューターで方向を定め、網を発射するのです。すなわち一発必中、かくのごとしです」
たかがハエのために、こんな大騒ぎをするとは。ケイ氏は笑いたくなるのを押さえ、大声で早口にしゃべりはじめた。
「これが問題の生物なのですか。それでしたら、こんなに苦心することはございません。地球には、じつに便利なものがございます。これです。よくごらんください・・・・・・」
彼は万年筆型の噴霧器を取り出し、網のなかのハエに、強力な殺虫剤を吹き付けた。
「・・・・・・いかがです。この通りです」
住民たちはハエを見た。そして、驚きで目を丸くしてしながら顔を見つめあい、ため息とともに言った。「死んだ・・・・・・」
「そうです。ご覧の通り、すばらしい威力でございましょう。この薬品は強力で三十メートル四方にひろがり・・・・・・」
ケイ氏は得意げに、その効能を説明しはじめた。しかし、そばにいた長官は言った。「あなたは、なんということをしてくれたのです。いまや絶滅寸前にある。この貴重な昆虫をころしてまうとは。現在この星には、卵、幼虫を含めて、九つしか存在していない。その一匹が逃げ出したから、これだけの騒ぎをしたのです。だが、あなたにころされ、残りは八つになってしまった。われわれのかけがえのない宝です。ただではすみませんぞ・・・・・・」
ケイ氏はそれを聞き、青くなった。誤解だったの、悪意でやったのでないと言っても、許してもらえそうにない。このままだと極刑に処せられる。あらゆる弁解をし尽くし、せっぱ詰まった彼は言った。「何とかお助けください。なんでしたら、地球から取り寄せておかえしします」
「なんだと。それは本当か・・・・・・」
「地球でも、そとには絶対に出さないことになっているのですが・・・・・・」
長官の喜んだ表情から、ケイ氏は商売を思い出し、もったいをつけた。
彼はしばらく人質となって、その星でくらした。やがて彼の連絡により、地球から無人貨物船がとどき、そのなかにはハエの卵が七つ入っていた。これを発送した係は、さぞふしぎがったことだろう。しかし、よく発送してくれた。ふざけるなと怒り、発送しなかったら、ケイ氏の運命は、この星でつきてしますところだった。
ケイ氏は死なずにすんだばかりか、この星での人気はいっぺんに高まり、待遇もよくなり、多額の代金さえもらうことができた。
こんな妙味とスリルがあるからこそ、彼はなかなかべつな仕事に移る気になれないのだ。
posted on 2007-09-19 22:24
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